2014年10月1日水曜日

中国の水危機:壮大な新運河、「南水北調」プロジェクト、北京で給水開始




2014.10.01(水)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41834

中国の水危機:壮大な新運河
(英エコノミスト誌 2014年9月27日号)

巨大な新運河は中国の深刻な水不足を解決しない。
中国北部の水不足懸念広がる、
北京は3か月まとまった雨なし


●中国の水危機は、同国の発展と安定を脅かしている〔AFPBB News〕

 間もなく、長江から北へ首都・北京まで続く全長1200キロの運河への水門が開かれ、中国屈指の土木プロジェクトの中核要素が完成する。

 新たな水路は、世界最大の引水構想の一部に過ぎない。
 これまでに運河建設と、運河に水を送る中国中部の貯水地拡張への道を開くために、30万人以上の人が住まいを追われた。

 だが、政府は急いでおり、こうした住民の苦情を気にも留めてこなかった。

■深刻な水不足、運河開通も一時しのぎ

 中国の指導者たちは、すでに何百億ドルもの資金を投じた「南水北調」プロジェクトは、国の発展と安定を脅かす水問題を解決するために極めて重要だと考えている。
 北京周辺の穀倉地帯では、1人当たりの水の量がニジェールやエリトリアといった極めて乾燥した国々と同程度しかない。

 水の過剰使用で数千もの川が消滅した。
 地下水面が低下し、川が干上がるにつれて、手に入る水の量が急激に減っている。
 残っているわずかな水は多くの場合、汚染がひどく、工業用水にさえ使えない。

 世界銀行は、中国の水危機は主に健康被害のために、中国に国内総生産(GDP)比2%以上のコストをもたらしていると述べている。
 このため北京に新たに水が供給されることは、政府関係者に大きな安心を与える。
 実際、水不足があまりに深刻なため、過去に首都移転のようなドラスチックな解決策を提案した人もいたくらいだ。

 だが、中国の水問題は今後も解決されないままだ。
 新たな運河は引水計画の2本目の水路だ。
 中国東部で昨年水門が開けられた1本目の運河は、中国南部から1400年前に建設された京杭大運河に沿って北部の平野へ水を運ぶ。
 水の需要が急増し続け、汚染が蔓延したままの状況では、どちらの運河も一時的な暫定措置にしかならないだろう。


 中国の水危機は、派手な巨大プロジェクトで解決することはできない。
 水危機の責任は、水に富んだ南部と乾燥した北部の間の供給量のミスマッチと同じくらい見当違いの政策にある。
 必要なのは、もっとコンクリートを使った土木構想ではなく、水管理に対する新たなアプローチだ。

■料金を請求しろ

 解決策はシンプルだ。
 中国は水に適切な値段をつけるべきなのだ。
 水の料金は最近少し上昇したが、水が乏しい場所でさえ、水道料金はばかみたいに安く、その結果、莫大な無駄が生じている。

 北京は、水を大量に消費する、エリートのためのゴルフ場に囲まれている。
 一般家庭は、水に価値があることをほとんど認識していない。
 計画立案者は水のコストを考慮せず、そのため地方政府は水を大量に使う企業を砂漠地帯に誘致し、役人は干ばつに見舞われやすい地域を巨大な新都市の建設地に指定する。

 水が不足している地域で水の価格を引き上げれば、そのような地域への投資を思いとどまらせることになるだろう。

 食糧の自給自足に対する毛沢東主義の固執が問題を悪化させている。
 2億人が住む乾燥した北部の平野地帯は、小麦やトウモロコシなど、水を大量に使う穀物を生産している。
 この地帯で消費される水の7割近くが農業に使われている。
 中国が自立的な考えを捨て、食糧の輸入を増やすべき時が来ている。

 中国共産党は昨年、水や土地、電力などの資源の配分で市場原理が決定的な役割を果たすのを認めると宣言した。

 共産党が水でそれを実践すれば、多くの恩恵を得られるだろう。
 開発はこれまでより環境に優しいものになり、中国は水を国中に運んだりするよりも生産的なプロジェクトに資本と優れた工学スキルをつぎ込める。
 さらに、すべての人が大金を節約できるだろう。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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レコードチャイナ 配信日時:2014年12月31日 10時0分
http://www.recordchina.co.jp/a845.html

「南水北調」プロジェクト、北京で給水開始=水不足の根本的な解決にはならず―米紙


●25日、長江流域から北部に水を引く「南水北調」は、一大国家プロジェクトとして推進されているが、数々の論争も呼んでいる。中央ルートの完成から2週間が経過し、北京での給水が始まった。写真は重慶の三峡ダム付近にある世界最大のドリーネ(溶食凹地)。

 2014年12月25日、米紙ニューヨーク・タイムズは、
 「中国の南水北調プロジェクトの水が北京へ」と
題した記事を掲載した。
 中国南方地域から約1300キロを旅してきた水が、北京の蛇口から出てくることになる。

 長江流域から北部に水を引いてくるという「南水北調」は、一大国家プロジェクトとして推進されているが、数々の論争も呼んでいる。
 その中央ルートの完成から2週間が経過し、北京での給水が始まった。

 南水北調中央ルートにより、北京は年間需要量の3分の1がまかなわれるという。
 だが、専門家からは、高コストのプロジェクトは長期的な解決案にはならないとの指摘がある。
 首都の人口増加や経済成長にともなって水の需要も増大し、汚染によって利用可能な水源も減少している。
 北京は今後もきわめて深刻な水不足と向き合うことになる。

 水利部(省に相当)の研究者は、新たに引かれる水は首都の水不足をある程度緩和するが、汲み上げ過多の地下水の不足を補うことは難しいと指摘する。
 南水北調中央ルートの完成以前、北京では毎年36億立方メートルの水を消費していたが、その半分近くは地下水だ。
 1998年以降、北京の地下水位は毎年約13メートルのペースで低下しており、研究者は
 「北京は約60億立方メートルの水を地下に戻さなければならない」
と語る。
 これは南水北調だけでは解決できない不足量であり、根本的な解決のためは節水と北京の人口を抑制するしかない。
 昨年、中国工程院(工学アカデミー)の王浩(ワン・ハオ)氏は
 「北京の地下水が空になろうとしている。
 地下水位は一年で90メートルも低下した」
と警告した。

 だが、これは容易なことではない。
★.理由の一つとして挙げられているのが水道管の老朽化だ。
 北京を含めた大都市の水道管網は老朽化が進み、常に漏水している状態で、大規模な改修の必要性が指摘されているが、ほとんど何の対策も取られていないという。
★.もう一つの理由は、水道料金が安すぎることだ。
節水を推進するため、水利部の研究者は、水道料金を少なくとも現在の倍にする必要があると指摘しているが、今のところそのような計画が検討されたことはないという。




【描けない未来:中国の苦悩】






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